販売前の犬・猫の健康診断で先天性疾患を見落とした獣医師は法的責任を問われる?
ここでは、ペットショップから依頼されて、販売前の犬・猫の健康診断を実施した獣医師が先天性疾患を見落とした場合、何らかの責任を問われるかどうかについて解説します。
契約関係にあるペットショップに対しては契約上の責任を負う場合がある
ペットショップとの間の契約内容によっては、当該ペットショップに対して、販売前の犬・猫の健康状態の異常や先天性疾患がないかなど注意深く診察すべき契約上の義務を負う場合があります。その義務を果たさなかったことで、犬・猫の先天性疾患を見落とした場合には、契約上の責任を負う可能性があります。
犬・猫に発生しやすい先天性疾患の中には、今回のご質問のケースのように、聴診や外観で容易に診断あるいはその疑いを確認できるものもありますが、ある程度成長して初めて異常が明確となる疾患や、精密機器等を用いた特殊な検査を行わないと判断できない疾患もあります。
ペットショップから依頼を受けて健康診断や予防接種を行う場合には、契約を締結する前に、具体的な検査項目や診察時に求められる実践的水準、販売後のペットに先天性疾患が見つかった場合の責任の所在を確認することが重要です。
契約関係にない犬・猫の購入者に対しては法的責任を負わない
ペットショップが先天性疾患を持つペットを販売していたとしても、そのペットによって、獣医師とは契約関係にないペット購入者などの第三者が、その生命、身体または財産を侵害されることは通常ありません。
そのため、獣医師がペットショップから依頼されて、販売前のペットの健康診断や予防接種を行う獣医師は、契約関係にないペットの購入者に対して、注意義務を負うことはありません。
したがって、ペットショップとの契約に基づいて販売前に健康診断等を行ったペットに、後日先天性疾患が見つかったとしても、当該ペットの購入者からの治療費や慰謝料等の請求に応じる必要はないでしょう。
ペットショップから先天性疾患を隠蔽するための手術を依頼されたら要注意!
ここでは、犬や猫などの小動物医療に従事する獣医師が遵守すべき職業倫理について解説します。
日本は、世界でも目立って先天性(遺伝性)疾患の犬が多いと言われています。
検査技術の向上により病気の発生を減らせるようになったものの、特定の犬種に人気が集中する風潮や遺伝子に異常があると知らないまま繁殖を繰り返すなどのブリーダーの意識の低さが、望ましくない状況を生みだしたと指摘されています。
ペットショップの中には、病気のリスクがある犬・猫でも、安く大量に仕入れて販売しているところもあります。
根治させる治療法がある疾患であれば、治療をして販売できることもあるでしょう。
ただし、ペットショップやブリーダーから遺伝性疾患を隠蔽する目的で手術を依頼された場合は、決して応じてはいけません。
日本獣医師会が公表した小動物医療指針においても、「遺伝的欠陥を隠蔽するための手術を依頼された場合には、これに応じてはならない。ただし、譲渡や繁殖に供しないという前提のもとに、生活の質を向上させる目的で行う手術等に関しては、飼育者と協議のうえ実施する。」と定められています。
まとめ
ペットショップから依頼されて、販売前の犬・猫の健康診断を実施した獣医師が先天性疾患を見落とした場合、当該ペットショップとの契約内容によっては、注意義務や契約上の責任を問われる可能性があります。
しかし、契約関係にないペット購入者など第三者に対して、注意義務や法的責任を負うことはありません。
ペットショップに対して、契約上の注意義務を負うかどうかについては裁判でも争点となることが多いので、お困りの際には早めにご相談ください。
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