動物病院における診療報酬の回収方法について

人間と異なり、ペットの医療費には公的な健康保険がないため、基本的に飼い主が医療費を全額負担することになります。また、犬の平均医療費は年間約4万~7万、猫の平均医療費は年間約3万~3万5千円と言われており人間の医療費に比して高額です(参照:アニコム家庭どうぶつ白書2023/9頁)。

そのため、飼い主がペットの医療費を支払わず、動物病院が診療報酬を得られないという事態が生じています。そこで、以下では動物病院が未払い診療報酬を得るための適切な方法を概説します。

目次

未払い診療報酬の回収方法の流れ

未払いの診療報酬の回収方法は、基本的に以下の流れで行います。

①協議→②通知書・内容証明の送付→③支払督促→④民事調停→⑤民事訴訟

①協議(電話を掛ける、メールを送る、直接話し合う)

まず、手続費用がかからず、穏便に診療報酬を回収するため、電話、メール、直接の話し合いなどの協議で支払いの催促を試みてください。診療費の支払いを失念していたという方には有効な手段となる場合があります。

協議を行った場合には、記録に残しておきましょう。具体的には、電話を掛けた場合は録音をし、メールの場合は内容を残しましょう。直接話し合いを行い、支払いについて合意があった場合には合意書の作成を行いましょう。

②催告書や内容証明郵便の送付

協議によって支払いがされない場合や協議で合意した期限までに支払いがされない場合、催告書や弁護士に依頼して内容証明郵便などの書面による支払いの催告を行いましょう。

内容証明郵便で書面の支払いを催告する場合、法的な効果はありませんが、弁護士が介入しているという姿勢を見せることによって、相手に支払わなければ法的措置を取られてしまうのではないかという心理的なプレッシャーを与えることができます。これについては、支払い能力があるものの、診療報酬を踏み倒そうと考えている悪質な飼い主に対して効果的な場合があります。

③支払督促

上記の方法によっても支払いがされない場合には、支払督促の申立てを検討しましょう。

支払督促とは、診療報酬を支払わない飼い主に対して簡易裁判所の書記官が飼い主に支払いを命じる略式の手続きです。支払督促は裁判所に出向くことなく書類審査で行うことができます。また、手数料も訴訟の半分となるため費用負担が訴訟を起こす場合に比して少ないです。

書記官が支払督促を発布したにもかかわらず、支払いがされなかったり、異議の申立てがなかったりした場合には仮執行宣言付支払督促を発布してもらうことで強制執行を申し立てることができます。

支払督促は、民事訴訟に比較して安価かつ簡易な手続きで診療報酬を回収できる可能性があります。もっとも、支払督促は病院側と飼い主側で督促対象の金額や支払い時期、契約の有無に争いがない場合に向く手続きです。

よって、相手が反論してくることが見越せる場合には、民事調停や民事訴訟を検討してください。

④民事調停

上記の方法によっても支払いがされない場合や支払督促では診療報酬の回収が見込めない場合には民事調停を検討しましょう。

民事調停とは、調停委員という中立な立場の裁判所職員を介して解決方法を模索する方法です。民事調停は柔軟な解決が模索できる点にメリットがあります。

しかし、相手方となる飼い主に出頭義務や合意義務はないため飼い主側の協力がない場合や診療報酬の発生自体を飼い主側が争っており、譲歩する姿勢が見られない場合には適さないため、その場合には民事訴訟を起こすことを検討してください。

⑤民事訴訟

上記のいずれの方法によっても診療報酬の回収ができない場合には、民事訴訟を起こすことを検討しましょう。

民事訴訟は、飼い主に対して診療報酬を支払えという訴えを提起するものです。この方法は紛争解決の最終手段となります。

民事訴訟のメリットは、勝訴すると飼い主側に支払い能力がある場合、強制執行によって診療報酬を回収できる点です。しかし、訴訟は多くの時間と費用を要し、精神的負担も伴います。診療報酬の回収額によっては、諸費用が請求額を上回り、勝訴をしても経済的利益を得られない場合もあります。そのため、訴訟を起こすことができるかについては弁護士に相談することをお勧めします。

また、請求額が60万円以下の場合には少額訴訟という手続きを取ることもできます。少額訴訟は原則一回の審理で判決を受けることができるため、通常の民事訴訟に比べて簡易・迅速な手段です。こちらの方法も検討してみてください。

未払い診療報酬が発生しないようにするための対策

未払い診療報酬を事後的に回収するには労力やコストがかかりますし、必ず全額回収できるとは限りません。そこで未払い診療報酬が発生しないようにすることが重要です。

まず、ペットと飼い主の本人確認を保険証等の公的な本人確認証により行うという手段があります。この場合、飼い主の氏名、住所がわかるため、偽名や虚偽の住所の記載を行って費用を踏み倒そうとする悪質な飼い主に対する未払い診療報酬の発生を予防できます。

また、支払ができないという人に対しては、連帯保証人や保証人をつけてもらうことも有効的です。

保証人になった人に対しては、本人の承諾を得ているかについて確認の連絡を取っておけば、基本的に保証人をつけることで飼い主の支払い能力がなくなっても診療報酬を回収できます。

未払い診療報酬と時効との関係

民法の規定上、未払い診療報酬の時効は、令和2年4月1日以降に発生した場合は5年、それ以前に発生した場合は3年となっています。

時効が完成しないようにするためには(時効期間をリセットするには)、支払督促をする、飼い主側に未払い診療報酬があることを承認してもらう、裁判上の請求をするという方法があります。

単に支払いを催告するだけでは時効期間が一時的に猶予されるのみで、時効期間をリセットすることはできませんので、ご注意ください。

まとめ

動物病院の経営が忙しく、未払い診療報酬の回収対応に手が回らないという病院も少なくないと存じます。

弊所では、顧問契約をご締結いただいた場合、債権回収案件のご依頼を受けております。顧問契約費用や、債権回収費用についてご興味がある事業者様は、ぜひ一度お問い合わせください。

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弁護士 尾又比呂人 (第一東京弁護士会所属)

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