獣医師の説明義務とは?
ここでは、獣医師の説明義務について説明します。
診療行為について、飼い主の同意を得るための説明義務
ペットに病気が見つかり、診療行為を行うためには、飼い主の同意を得ることが必要です。その際に獣医師は、飼い主がペットに当該治療を受けさせるかどうかを熟慮し、決断することを援助するに足りる十分な説明義務を果たさなければなりません。
説明義務として要求される説明の範囲は、主に以下のとおりです。
- ペットの病名・病状
- 検査と治療の必要性およびその内容
- 検査や治療を受けることで考えられるリスク
- ほかにどんな治療法があるか
- 予後 など
療養方法の指導としての説明義務
獣医師は、治療を受けたペットの飼い主に対して、服薬や食事などについて説明や指導をし、今後予想される症状や経過、対処法などの説明義務があります。
飼い主にとって、病院から帰ったあと、ペットにどのような症状が出たら再び病院へ行かなければいけないかなど、不安になることが多いです。そのため、ペットに異変があった時、飼い主が適切な行動をとれるように獣医師には説明義務が課されています。
説明義務の内容についても「何かあれば来院してください」といったあいまいなものではいけません。例えば、薬を投与したことで起こる可能性がある具体的な副作用(下痢をする、元気がなくなるなど)の内容を詳細に説明する必要があります。
具体的な症状を伝えることで、飼い主は受診が必要かどうか、適切に判断できるからです。
治療の結果を飼い主に対してする説明義務
獣医師は、治療を受けたペットがその後、どのような経過をたどったのか、飼い主に対して報告義務があります。この場合、カルテに記載していることをすべて報告する必要はありません。
問題となるのは、獣医師が行った治療によって飼い主が納得できる結果にならず、医療事故となった場合です。判例では信義則上、獣医師に対してカルテの開示義務を認めています。
獣医師の責任が問われるケースとは?本事例で損害賠償請求が認められた理由
ここでは、獣医師の責任が問われるケースや本事例で損害賠償が認められた理由について説明します。
術前にすべきだった生検を行わなかった|治療義務違反
飼い主には、ペットにどんな治療を受けさせるか決定する自己決定権があります。獣医師は飼い主の自己決定権を保証するために、治療方法を選択する機会を提供しなければなりません。そのためには適切なデータが必要になり、データを得るためには検査をする必要があります。
本件の①について、獣医師が犬の腫瘤の悪性、良性の別を診断するため、手術をする前に生検を行うべきだったのにしなかった点が問題となっています。治療の方法やその範囲は、腫瘍のタイプ(良性か悪性か)を知ることで大きく変わりますし、再構築が難しい部位の手術を要するか、提案された方法が明らかに後遺症を残す場合には、特に生検を行うことは非常に重要なものになります。
本件では、悪性腫瘍の場合、再発すると断脚しなければならず、またかかる犬には後ろ足に関節症があったことから、断脚を行うと歩行障害等の重大な障害が残る状況にありました。したがって、医師としては、本件で生検により生じる危険性が低かったこともあり、生検を行わなかったことは、明らかな治療義務違反となります。
術後再発したときは断脚するしかないことについての説明を怠った|説明義務違反
獣医師の説明義務範囲は、疾患の診断(病名、病状)、実施予定の治療方法の内容、その治療に伴う危険性、他に選択可能な治療法があればその内容と利害損失、予後などに及ぶとしています。
本件では、獣医師が手術前に行った説明が、悪性、良性いずれでも摘出しかないこと、もともと後ろ足の悪かった犬の歩行に支障をきたすおそれがあることの説明にとどまりました。
手術に伴う危険性として、本件腫瘤が悪性で、術後再発したら断脚しかないことを説明しなかったのは、重大な説明義務違反といえます。
事前に説明されていれば、飼い主は犬に手術を受けさせませんでした。その場合、長期の寿命はかなわなくとも、今回のように手術後1か月半程度で死ぬことはなかったといえます。高齢の犬に大きな苦痛を与えたくなかったと考える飼い主の心情は、治療方法を選択する際の自己決定権に値するとし、慰謝料の支払いが認められたと考えられます。
まとめ
飼い主が、飼育しているペットに対して手術を行った方が良いのか、悪いのか等を判断する前提として、獣医師には、適切な説明を行う義務があります。これを怠ったことにより、飼い主の自己決定権が侵害されたと言える場合には、獣医師に法的責任が発生する可能性があります。
もしこのような被害に遭われた飼い主の方がいらっしゃいましたら、一般社団法人アニマルパーソンズへのご相談を推奨します。以下のバナーをクリックしてください。