ペットショップが遵守すべき法律|動物愛護管理法
ここでは、動物愛護管理法について解説します。
動物愛護管理法とは
動物愛護管理法の正式名称は動物の愛護及び管理に関する法律であり、主に動物の虐待などの防止について規定された法律です。
動物愛護管理法21条の4では、第一種動物取扱業者のうち、犬・猫その他の環境省令で定める動物の販売業を営む人に対し、以下のとおり、重要事項の事前説明を義務付けています。
(販売に際しての情報提供の方法等)
第二十一条の四 第一種動物取扱業者のうち犬、猫その他の環境省令で定める動物の販売を業として営む者は、当該動物を販売する場合には、あらかじめ、当該動物を購入しようとする者(第一種動物取扱業者を除く。)に対し、その事業所において、当該販売に係る動物の現在の状態を直接見せるとともに、対面(対面によることが困難な場合として環境省令で定める場合には、対面に相当する方法として環境省令で定めるものを含む。)により書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を用いて当該動物の飼養又は保管の方法、生年月日、当該動物に係る繁殖を行つた者の氏名その他の適正な飼養又は保管のために必要な情報として環境省令で定めるものを提供しなければならない。
引用:動物の愛護及び管理に関する法律 21条の4| e-Gov法令検索
適正な飼育又は保管のために必要な情報として環境省令で定めるものは、次に掲げる事項です(動物の愛護及び管理に関する法律施行規則8条の2第2項)。
- 品種等の名称
- 性成熟時の標準体重、標準体長その他の体の大きさに係る情報
- 平均寿命その他の飼養期間に係る情報
- 飼養又は保管に適した飼養施設の構造及び規模
- 適切な給餌及び給水の方法
- 適切な運動及び休養の方法
- 主な人と動物の共通感染症その他の当該動物がかかるおそれの高い疾病の種類及びその予防方法
- 不妊又は去勢の措置の方法及びその費用(哺乳類に属する動物に限る。)
- 前号に掲げるもののほかみだりな繁殖を制限するための措置(不妊又は去勢の措置を不可逆的な方法により実施している場合を除く。)
- 遺棄の禁止その他当該動物に係る関係法令の規定による規制の内容
- 性別の判定結果
- 生年月日(輸入等をされた動物であって、生年月日が明らかでない場合にあっては、推定される生年月日及び輸入年月日等)
- 不妊又は去勢の措置の実施状況(哺乳類に属する動物に限る。)
- 繁殖を行った者の氏名又は名称及び登録番号又は所在地(輸入された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を輸出した者の氏名又は名称及び所在地、譲渡された動物であって、繁殖を行った者が明らかでない場合にあっては当該動物を譲渡した者の氏名又は名称及び所在地)
- 所有者の氏名(自己の所有しない動物を販売しようとする場合に限る。)
- 当該動物の病歴、ワクチンの接種状況等
- 当該動物の親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況(哺乳類に属する動物に限り、かつ、関係者からの聴取り等によっても知ることが困難であるものを除く。)
- 前各号に掲げるもののほか、当該動物の適正な飼養又は保管に必要な事項
したがって、ペット販売業者は、犬・猫その他環境省令で定める動物を販売する場合には、当該動物の病歴、その親及び同腹子に係る遺伝性疾患の発生状況を含む特性および状態に関する情報を把握して購入者に説明する義務があります。
適切な情報提供を欠いた売買契約の有効性
売買契約の締結段階で、販売する動物が先天性疾患を持つことを隠していたなど、適切な情報提供がなされなかった場合は、当該売買契約は、民法90条が規定する公の秩序または善良の風俗に反する法律行為に該当するとして、無効になると考えられます。
関係者からの聴き取り等によっても知ることが困難であるものを除き、先天性疾患を持つことを認識できないまま提供した場合にも、公序良俗に反するもとして当該契約が無効となる可能性があるでしょう。
動物愛護管理法21条の4の対象動物
販売に際して、対面・適切な情報提供が必要な対象動物は、犬・猫のほか哺乳類、鳥類または爬虫類に属する動物が含まれます(動物の愛護及び管理に関する法律施行規則8条の2第1項)。
引き渡し後に先天性疾患が判明した場合のペットショップの法的責任
ここでは、購入者へのペット引き渡し後、先天性疾患等が判明した場合に生じるペット販売業者の法的責任について解説します。
契約不適合責任
ペットは生き物ですが、法律上は物として取り扱われます。
ペット事業者には、上記のとおり、動物愛護管理法上、ペットの先天性疾患等の説明義務があります。
ペットショップでペットを購入する人は、当該説明義務が果たされているものと考えるため、ペット事業者が、かかる説明をしなかった場合、購入するペットには、先天性の病気や障害がないという売買契約の内容になるものと考えられます。
その場合、ペット事業者が、病気を患っているペットを引き渡したのでは、契約の内容に適合した義務を履行したとは言えません。
そのため、購入者はペット販売業者に対し、契約不適合責任として履行の追完を請求できます。
購入者から履行の追完を求められた場合には、別の健康なペットへの交換や動物病院での治療にかかった治療費等の損害賠償の支払いに応じる必要があるでしょう。
当該疾患が治療不能な場合など履行の追完が不可能な場合や、購入者が催告した期間までに履行を追完できない場合には、不適合の程度に応じて代金の減額を請求される可能性もあります。
債務不履行責任
購入したペットに先天性疾患などの隠れた瑕疵があった場合、購入者は、獣医師の診断書を元に、ペット販売業者に対し、損害賠償や売買契約の解除を請求できます。
購入者が売買契約を解除せずに債務不履行責任を追及する場合には、治療費を負担することになるでしょう。契約を解除する意思が表示された場合には、代金の返還に応じなければならないことがあります。
ペットショップは先天性疾患の有無を検査しなければならない?
ここでは、ペット販売業者は、販売前に先天性疾患の有無を検査する義務を負うかどうかについて解説します。
検査をする義務はない
ペット販売業者は、販売するペットの親及び同腹子にかかる遺伝性疾患の発生状況(哺乳類に属する動物に限り、かつ、関係者からの聴取り等によっても知ることが困難であるものを除く。)を把握し、その情報を購入者に適切に提供しなければなりません。
しかし、販売するペット全頭の遺伝子検査までをも義務付けられているわけではありません。
近年では、大手ペットショップによる取組として、独自に犬・猫の遺伝子検査を行う個別対策がとられており、一律の遺伝子検査の義務化が必要であるとの意見も見られるため、近い将来、全頭の遺伝子検査が義務化される可能性もあるでしょう。
購入者が行った検査費を負担しなければならないことはある
ペットの引き渡し後、購入者において獣医師の検査・診断等により、当該ペットに先天性の疾患があることが判明した場合には、購入者からの請求に基づき、検査や治療に要した費用を負担しなければならないことがあります。
先に述べたとおり、販売したペットに先天性疾患等の隠れた瑕疵があった場合には、契約不適合責任や債務不履行責任を問われる可能性もあります。
ペットに先天性疾患が見つかっても責任を負わない旨の契約書は有効?
ここでは、ペット販売事業者と消費者である購入者との間の売買契約書について解説します。
消費者に一方的に不利益な条項は無効となる
ペットショップでペットを販売する際には、いわゆる売買契約書を用いるのが一般的です。
ペット販売業を営む方の中には、消費者である購入者からの損害賠償請求のリスクを廃除するために、売買契約書に以下のような特約を設けることを検討する方もいらっしゃるでしょう。
- ペット引き渡し後は、一切責任を負わない
- ペット引き渡し後の返品・交換には一切応じない
- ペット引き渡し後に判明した先天性疾患に対する治療費の支払いには応じない
しかし、このような消費者にとって一方的に不利益な条項は、消費者契約法により無効とされる可能性があります。
消費者契約法8条1項において、事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効とする旨定められているからです。
契約書に記載する保証内容の効力
売買契約書がある場合、消費者保護法などで無効となる場合を除き、契約当事者は、原則としてその契約書に記載された特約に拘束されます。
ペットの引き渡し後に、病気(先天性疾患を含む)が判明したとき、死亡したとき、どのような保証をするかをあらかじめ定めることで、トラブルを回避できる可能性があります。
保証内容や期間を限定したり、保証の対象とする疾病を指定したりすることで、債務不履行が故意または重大な過失によるものでない場合に負担するペット販売業者の責任を軽減できることもあります。
特約の設定を含む売買契約書の作成にあたっては、ペット法務に注力している弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
ペットの販売後、購入者から先天性疾患が判明したことを告げられた場合、健康な個体との交換によりスムーズに解決できることもあります。
しかし、購入後、数日でも家庭で飼育し始めると愛着・愛情がわき、交換以外の方法での保証や損害賠償を求められることも少なくないでしょう。
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