犬の鳴き声による騒音トラブル|ブリーダーがすべき対策は?

木造住宅1階で小型犬のブリーダーをして暮らしていますが、私の家に隣接するマンションの方が、鳴き声がうるさいと慰謝料300万円の損害賠償請求をしてきました。建物の防音設備を整えるなど対応しましたが、納得してもらえませんでした。ブリーダーなので犬が多少吠えてしまうのはやむを得ないと思うのですが、損害賠償しなければならないのでしょうか。

ご質問のケースに類似する過去の裁判例では、主に以下を理由として、犬の鳴き声が社会生活上受忍すべき程度を超えて隣人の平穏な生活を営む権利を侵害していないと判断し、隣人の請求を棄却しました。

  • 複数の犬が一斉に鳴き声を上げて規制基準値を超えるのは一時的であること
  • ブリーダーが犬の鳴き声による騒音に対して適切な措置を講じていたこと
  • 犬の鳴き声が気にならないとする近隣住民もいたこと

犬の鳴き声による騒音に対して飼い主が講じるべき措置や、裁判所の考え方を確認してみましょう。

目次

犬の鳴き声がうるさい! 近所から苦情がきたらどうする?

ここでは、犬の鳴き声がうるさいと近所から苦情がきた場合どうするかについて説明します。

犬は昔からペットとして人気のある動物で、猫と同様に人間の良きパートナーとして人気がある動物です。しかし、すべての人が犬に好意的な感情を持っているわけではありません。特に鳴き声にストレスを感じる人が多く、ご近所トラブルの発端になることもあります。

動物愛護管理法に基づく努力義務

動物愛護管理法(正式名称:動物の愛護及び管理に関する法律)は、1973年に動物の保護及び管理に関する法律として制定されました。

動物を所有するすべての人に向けたルールとして、主に動物の虐待や遺棄を防止することを規定した法律ですが、動物の飼い主(動物を販売する業者を含む)に課せられる飼育や保管の責任についても述べています。

動物の種類や習性を理解して、動物の健康と安全に努めること、人間に迷惑をかけたり害を与えたりしないこと、繁殖を防ぐために不妊去勢手術をすることなどがあげられます。いずれも努力義務ではありますが、動物を飼う上での責任の所在を明確にしています。

犬が吠えないようにしつけをする、飼育する環境をきちんと整えることは、犬と生活する人にとって重要なのです。

動物占有者等の損害賠償責任

動物を飼育・管理する者は、民法上、動物の占有者としての責任を負います(民法718条)。

例えば、飼育している犬が第三者にけがをさせたら、損害賠償責任が課せられます。

飼育管理状況がしっかりなされているなど、飼い主が動物の種類及び性質に従い相当の注意を払っていたと判断される場合には責任を免れることがありますが、免責が認められる事例は、極めて稀といえるでしょう。

損害賠償を請求された!どうすればよい?

ここでは、損害賠償を請求された場合にどうすればよいかについて説明します。

犬の鳴き声で裁判になった場合、損害賠償の基準は?

前掲の裁判例(以下、「本件」といいます。)の被告であるブリーダーは、新宿の高層ビルが建ち並ぶ大通りから少し入った商業地域に住み、20年来繁殖を行っていました(飼育数は常時20匹未満)。犬の鳴き声による騒音に対しては人によって捉え方が異なりますが、どのような場合に、損害賠償請求が認められるのでしょうか。

犬の鳴き声の時間帯・音量・頻度

本件では、まず犬の鳴き声がする時間帯・音量・頻度が重要なポイントとなります。騒音値を調査すると、敷地境界線上で犬の鳴き声が、L5値*60デシベルが上限のところ、最大L5値が70デシベルであること、複数の犬が一斉に鳴き声を上げて規制基準値を超えるのは朝夕の食餌時間など一時的(5分、長くて10分間)であることが分かりました。

*東京都環境確保条例では、騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合などには騒音の大きさの値をL5値によるとしています。L5値は、測定時間における指示値の90パーセントの範囲の上限を示す数値です。

ブリーダーが講じた措置

隣人からの苦情を受け、ブリーダーは窓枠、天井、マンション側の壁など、可能な限りパネル、詰め物、遮音シートを設置、遮音カーテン設置などの防音工事を行い、犬の鳴き声に対する対策を講じました。これによって、測定値も規定値をわずかに超える程度(60~65デジベル)にまで改善し、犬の鳴き声が気にならないと言う住民もいました。

そのため、裁判所は、犬の鳴き声が社会生活上受忍すべき程度を超えて平穏な生活を営む権利を侵害していないとし、隣人の請求を棄却しました。

住環境

裁判所の判断に納得しなかった隣人は控訴しましたが、棄却される結果となりました。その理由の一つとして、ブリーダーが住んでいたのは、新宿の高層ビルが並ぶ大通り近くの商業地域で、他の生活騒音も大きいという地域性も影響したといえます。

苦情を無視していたら、損害賠償請求が認められたかもしれない

本件で、損害賠償請求が退けられたのは、ブリーダーが動物占有者としての義務を果たしていたことが大きいです。動物の鳴き声による騒音は受け手によって感じ方が大きく異なる半面、不可避的に発生するものです。

ブリーダーが、公法上の規制基準を超えていると認識してきちんと対策を講じていたことにより、隣人以外の近隣住民から、一度も苦情がきたことがなかったといいます。

ブリーダーが苦情を無視して犬の飼育環境の改善をしていなければ、損害賠償請求が認められた可能性があります。実際過去に、十分な運動量が必要な犬種なのに、散歩をほとんどしなかったため、犬がストレスを抱え異常な吠え方をし、その声で周辺住民が健康被害を受けたという事例があります。このケースでは、飼い主として、犬の習性を理解せず責任を果たしていなかったため、裁判で飼い主に対して慰謝料の支払いが命じられました。

まとめ 

犬と家族同様に暮らしている人や、ブリーダーを仕事にしている人にとって、犬の鳴き声が近所トラブルの発端になってしまうのは悲しいことです。問題がこじれてしまう前に、弁護士に相談して解決の道筋をつけましょう。

犬の鳴き声による騒音問題で近隣住民等とのトラブルにお悩みの方は、ぜひ一度、ネクスパート法律事務所にご相談ください。

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