【弁護士解説】ペットの療法食販売における法的な注意点について

近年、ペットの健康維持に対する意識の高まりとともに、特定の疾患や健康状態に対応するための「療法食」の利用が増えています。飼い主さんが動物病院で購入したり、ECサイトなどで入手したりする機会も多くなりました。しかし、この「療法食」を販売するにあたっては、いくつかの法的な注意点が存在します。今回は、弁護士の視点から、特に問題となりやすい薬機法と景表法を中心に解説します。

目次

療法食の法的な位置づけとは?

まず、療法食とは以下のように定義されています。

獣医師が犬・猫の疾患の治療などを行う際、人間の場合と同様、栄養学的サポートが必要な場合があります。治療の内容に合わせてフード中の栄養成分を調整し、治療を補助する目的で提供されるフードで、一般に犬・猫のフード(主食及び間食)として認識されることが明確であるものを療法食と呼びます。
参考文献:『ペットフードの表示に関する公正競争規約・施行規則 解説書』(ペットフード公正取引協議会)

そして、最も重要な点として、日本の法律においてペットの療法食は、医薬品や医療機器等ではなく、ペットフードとして位置づけられています。

人間の医療における「医療用医薬品」のように、特定の疾患に対する治療効果が認められ、その製造・販売が厳しく規制されている「動物用医薬品」とは明確に異なります。

薬機法上の注意点「医薬品的な効果効能」の表示禁止

薬機法では、医薬品としての承認を受けていない製品について、疾病の診断、治療または予防を目的とする効果効能があるかのような表示や広告を行うことを禁止しています(薬機法第68条)。

療法食は特定の疾患を持つペットへの使用を想定していますが、その表示や広告において、あたかも医薬品のように「病気を治療する」「症状を治す」「病気を予防する」といった効果効能を標榜すると、医薬品と誤認される恐れがあるため、薬機法に抵触する可能性があります。

例えば、

  • 「この療法食で〇〇病が完治します」
  • 「△△の症状が劇的に改善される治療食」
  • 「□□を予防する唯一のフード」

といった表現は、医薬品的な効果効能を標榜しているとみなされ、薬機法違反となるリスクが非常に高いです。

療法食の表示や広告においては、あくまで、特定の健康状態に配慮した栄養バランスであること、獣医師の指導のもと、疾患の栄養管理をサポートすること、健康維持を目的とした食事療法の一環であること、など食品としての栄養学的サポートの範囲内での表現に留める必要があります。具体的な病名に言及する場合でも、

  • 「〇〇に配慮した特別療法食」
  • 「△△の栄養管理を目的としています」

といった、あくまで栄養管理のための食事である旨を明確にすることが肝要です。

景表法上の注意点 根拠のない過大な表示の禁止

次に、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)についてです。景表法は、商品やサービスの品質、内容、価格などについて、消費者を欺いたり誤解させたりするような不当な表示を規制し、消費者の利益を保護するための法律です。ペットフードである療法食も、当然この景表法の規制対象となります。

景表法で特に問題となりやすいのは、優良誤認表示です。これは、商品の品質や内容について、実際のものよりも著しく優れていると偽って表示したり、競争業者のものよりも著しく優れているかのように表示したりして、不当に顧客を誘引する行為を指します(景表法第5条第1号)。

療法食の販売においては、その効果効能や品質について、客観的な根拠がないにも関わらず、過大な表示を行うことが優良誤認表示にあたる可能性があります。

例えば、

  • 「(実際には限定的なデータしかないのに)全ての臨床例で〇〇に効果があった」
  • 「科学的根拠がないにも関わらず、特定の成分に△△への驚異的な効果があるかのように示唆する」
  • 「競合製品よりも明確な優位性がないのに『最高の品質』『唯一無二の効果』と断定する」

といった表示は、優良誤認表示とみなされるリスクがあります。

景表法に基づき、事業者は表示の裏付けとなる「合理的な根拠」を求められます。療法食の効果効能に関する表示を行う場合は、その表示内容を裏付ける科学的なデータや試験結果などを準備しておく必要があります。

療法食の販売に特別な「届出」や「登録」は必要か?

一部の飼い主さんや販売者の方から、「療法食を販売するには特別な許可や届出が必要なのではないか」という疑問を持たれることがあります。

結論から申し上げますと、「療法食」という製品カテゴリーであること自体を理由とする、国や自治体への特定の届出や登録を義務付ける制度は現在の日本の法律には存在しません。

したがって、療法食の販売は、一般的な事業の開始に必要な手続き(法人登記や個人事業の開業届など)を行っていれば、製品の種類として「療法食だからこの届出が必要」といった特別な手続きは不要です。

まとめ

ペットの療法食は、法的には食品として扱われ、医薬品のような直接的な薬機法による規制や、特定の登録制度はありません。

しかし、販売にあたって行う「表示」や「広告」は、薬機法および景表法の規制を受けます。

  • 薬機法上は、医薬品と誤認されるような疾病の治療・治癒・予防を標榜する表示を行わないこと。
  • 景表法上は、効果効能や品質について、根拠のない過大な表示や消費者に誤解を与える表示を行わないこと。

これらの点に十分注意し、製品パッケージ、カタログ、ウェブサイト、SNSなど、あらゆる媒体での表示・広告において、正確で客観的な情報に基づいた、誤解を招かない表現を心がけることが、法的なトラブルを避ける上で極めて重要です。

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